図書

トヨタ創業家の継承の苦悩と突破力|『豊田章男』感想

図書:豊田章男(東洋経済新報社)

著者のプロフィール

著者:片山修氏
愛知県名古屋市生まれ。経済、経営など幅広いテーマを手掛けるジャーナリスト。「ソニーの法則」「トヨタの方式」「社員を幸せにする会社」など著書は60冊以上。

 

目次

会社を辞めようと思う

時価総額日本一のトヨタの社長として描いていた印象とは違うエピソード。挫折や苦悩はどんな境遇の人にもあるもの。自分にばかりスポットを当てているとどうしても「なぜ、自分ばかり」と悲観的になりやすい。トヨタ創業一族である「豊田」の姓を名乗るのはそれだけで否応なしにあらゆるレッテルが貼られていく。直接耳に届かない言葉も、毎夜床に就くと想いめぐることだろう。『なぜ豊田姓に生まれたのか』自分と向き合う孤独な時間を持ったからこそ、自信あふれる今の姿がある。人生は「山あり谷あり」と言うけれど、豊田章男氏ほど山が高く、谷が深い人生はそうあるモノではない。

「俺は、会社にいないほうがいいのか…」と真剣に悩んだ。「おまえのような者を部下に持ちたい者はおらん」という父親の言葉が実感として迫った。
「自分はいったい、何者なのか」苦悩し、懊悩し続け、それを浄化する術を模索した。

現地現物の原点

トヨタの社長と言えば、現地現物と言われている。歴代社長も生産工場を訪問し、現場の声を聴き、肌で感じることを実践してきた。豊田章男氏の現場訪問は歴代とは一線を画すもの。工場訪問は事前告知なしの突撃だ。一週間以上前から社長の訪問予定を告げると、現場は準備に追われ、当日は緊張した空気が流れる。突然の訪問には、そんな緊張を持たせない効能があると言う。突然の訪問に驚きはあるが、現場は一様に笑顔になる。現場社員のモチベーション、心を動かす術をよく心得ている。結果、社長訪問に備えるという無駄の撲滅と生の現場の声を聴くことに成功している。

「俺はトラックに飛び乗って運転手に話を聞いてくるから、おまえはこのクルマを代わりに運転して、跡をつけてこい!」
運転手は驚き、その勢いに恐れをなした。無鉄砲である。まるで突貫小僧ではないか。

GAZOO誕生

GAZOO誕生の歴史が1996年までさかのぼるとは知らなかった。豊田章男氏が仕掛けているのは最近の話だと思っていたから驚いた。ジャストインタイムを販売店にまで広げるという思想とIT事業に対する社内の反発は相当のものだったらしい。しかしそれ以上に、豊田章男氏の気迫が勝っていたことだろう。時に、社内の抵抗勢力は社外のライバル企業よりも手ごわいであろう。共通の敵は団結を生みやすいが、志や目的を共通させることが難しいことがよくわかる。経営者としての原点がGAZOOにある。

組み立てたコンピューターにウィンドウズをインストールすると、高らかな起動音とともに画面が立ち上がった。メンバーから、わッと歓声が上がった。ガレージから創業するシリコンバレーのベンチャー企業の姿と何ら変わらない。章男は、「あの時の歓声は、今でも覚えている」と懐かしむ。

50代で遊び心に火が付く

レーシングドライバー「モリゾウ」を名乗る。この世に生を受けてから、その一生を終えるまで「豊田」の姓を背負って生きていく。当たり前だが、あらゆる場面での言動・行動・決断が注目される。失敗すれば叩かれ、批判される。評価さえることは余ほどない。そんな息つく間のない時間から解き放たれるのがモリゾウタイム。モリゾウとなってドライビングシートに乗る、仲間と語らう時間を大切にしている。仕事の一環であることに変わりないが、仕事の中でもスイッチの切替が創造性を豊かにする。自分らしくとは自由気ままに生きるのではなく、豊田章男氏のように精一杯「モリゾウ」を演じることかもしれない。そう感じさせてくれた。

「豊田章男というと、トヨタ社長という鎧を着ないといけないが、モリゾウといえば1人のクルマ好きになれる。このクルマが好きだ、あるいは嫌いだと、自由に言える」

創業の原点

不易流行という言葉が豊田章男氏にぴたりと当てはまる。トヨタグループの創業者である豊田佐吉翁の考え方を大切にしてる。「豊田綱領」が決断を下す際の基準となっている。時代に似つかわしくないと経営理念などを変える企業は多いが、創業の精神を受け継いでいくことも後継者の役目。創業者は孤独なマラソンランナー。2代目以降はバトンを繋ぐ駅伝ランナー。創業の精神を額縁に入れておくのではなく、しっかり実経営に生かし受け継ぐことを大切さが伝わってきた。

豊田綱領
一、上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を挙ぐべし
一、研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし
一、華美を戒め、質実剛健たるべし
一、温情友愛の精神を発揮し、家庭的美風を作興すべし
一、神仏を尊崇し、報恩感謝の生活を為すべし

名前がハンディキャップ

「豊田」という姓を長年ハンディキャップのように感じていた。でもそれは本人の意識の中。人はそれぞれ自分の中にハンディキャップを背負っているもの。私自身も経営者の家系に生まれ、家業の看板を重く感じることが多かった。でも身体的にハンディキャップを背負っているはずのパラリンピックの選手が、自身の個性として受け入れているというのは驚きだ。その方の苦悩を想えばという気持ちにさせられた。姓も名前も立派な個性として生きていこうと考えさせられたエピソード。

パラリンピックの選手たちと接したとき、彼らはハンディキャップを前向きに「個性」と捉えていますね。それを見て、私も名前や立場を「個性」と捉えて生きていけばいいのだと思うようになりました。

強い想いはシンプル

「もっといいクルマをつくろう」
豊田章男氏が就任時に発したメッセージの一つだ。シンプルなメッセージに秘められた想いはクルマつくりの終わりなき挑戦。たくさんクルマをつくることが目的ではないという創業家の想いが詰まったメッセージだ。時代を切り開くクルマを創る研究に情熱をもって取り組む姿勢が現れている。

「トヨタは一時、クルマではなくおカネをつくる会社になっていた」

覚悟を決める

2010年2月24日、リコール問題で米国の公聴会での演説前。社長としての生死の境目に立たされて、同じ様に振舞うことが出来る人間がどれほどいるのだろうか。社長の職を失う覚悟ではなく、トヨタを守る、存続させる強い覚悟だ。経営トップが覚悟を決める時、それは自らの生命以上に会社存続という使命のために覚悟するという意味。「覚悟」という言葉の重みを痛感するエピソードだった。

後に、章一郎は章男に「トヨタの過去、現在、未来を代表して、おまえが謝っているように見えた」と語った。

普通への危惧

大企業であるトヨタが個性を追求する。トヨタの連結従業員数は36万人を越える規模である。特に原価低減やトヨタ生産方式はトヨタの代名詞。現場にいる社長だからこそ肌で感じる危機感があるのだろう。

「先人たちから受け継いだ原価低減とTPSを徹底的に磨き、地道に足元を固めていこうと思う」

対等な関係性

トヨタと対等という関係性は、提携する企業や下請け企業にとって恐れ多いことかもしれない。トヨタの顔色を伺うのはある意味仕方がない。しかし、それがゆえに斬新な発想や改善が生まれにくくなっている。マツダとの提携でも、クルマづくりの先生として相手をリスペクトして事にあったっている。対等な関係性を創ることに人一倍気を配っている印象がある。

「マツダさんは、まさに私たちが目指す『もっといいクルマづくり』を実践されている会社であり、今回の提携によって、私たちは多くのことを学ぶよい機会をいただいたと、感謝しております」

創業家の3代目

トヨタ自動車が世襲なら、系列の販売店も世襲が多い。ディーラーの経営者も企業のトップである。後継者同士通ずるところもあるからこそ、厳しい言葉をあえて使う。継承は継がせる側と継ぐ側双方の責任によって完成する。バトンの受け渡しと同じだ。トヨタという企業はここのところが絶妙に上手い。他メーカーが真似できない事業継承の強みがある。

「自分が生きている間に名声を得たいと考える人はたくさんいます。皆さんには、自分が死んだ後、先代のおかげで今があるといわれる人を目指して欲しい」

自分が居なくなった後の未来を創る

モビリティカンパニー宣言は自分一代で成し遂げるものではない。中期経営計画をつくっている企業は多いが、超長期のビジョンを示す企業は少ない。豊田章男氏は繰り返し伝え続ける。バトンをいくつ繋げばたどり着けるのかわからない壮大なビジョンである。トップがビジョンを語る大切さを体現している素晴らしいお手本だ。

「”すべての人に移動の自由を”をテーマに取り組む会社として、またグローバル企業市民として、トヨタは、世の中をよりよくしていくために役割をはたさなければならないと考えています。これは、決して軽くない責任と約束です。ウーブン・シティは、約束を果たすうえで、小さな、でも重要な1歩となります」

まとめ

社長就任時に抱いていたイメージをガラリと変えてくれた一冊。素晴らしい本に出会えたことに感謝するとともに、今後のトヨタと豊田章男氏の活躍が楽しみである。経営者、後継者のみならず、幅広い方々に読んでもらいたい一冊。

 

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